2018年7月12日木曜日

和語と五十音図

 和語と五十音図の関係はと言えば、現在知られているすべての和語(語彙)は、すべて五十音図の中の文字で表記される。逆に言えば五十音図を越えて和語はない。このことは、何を意味するか。初めに五十音図があって、和人はその中にある音(拍)のみを使って和語を作っていったということは考えられない。反対に和語を整理した結果、五十音図という枠組みが得られたということであろう。
 だが和語の長い歴史を通じて、最初からこのような五十音図という枠組みがあったとは考えにくい。事実、和語は、古代(上代)から時代の経過とともに多くの漢語をとり込み、それにつれて拗音拍、撥音、促音、長音拍が入り込み、それにつれて五十音図も膨れ上がっていった。ということは、五十音図の前段階として、おそらく縮小された形の図があったはずである。その時の和語は、その図に収まる範囲の数と語形のものであったはずである。その時代を経て、今見る五十音図に規定される和語の時代になったわけで、今われわれはそれを目の前に並べて見ていることになる。これはごく限られた一時代のことばであったであろう。このことを忘れないようにしたい。
 五十音図の前段階としては、例えば「三十音図」のようなものが考えられる。これには思惑があって、例えば五十音図のすべてのエ段語をイ段に、オ段語をウ段に畳み込んで、当時の母音は「あ、い、う」の三つであったとすれば「三十音図」が得られるのである。これを実行に移すには一人ではやや難しいが、そうすることによって特に語釈の分野でさまざまな新しい見解が得られる見込みがある。また謎多き上代特殊仮名遣いに何らかの理解が得られるのではないかと考えられる。

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